D3の白井です。12月1日に神戸大学で開催された日本基礎心理学会第38回大会で研究報告をしました。
【研究内容】
従来の研究では,道徳違反に関する判断にはより意識的にコントロールされた理性的な推論が重要であることが示されてきました。しかし近年の研究では,集団や自己に脅威を与える可能性のある人物を素早く検出するために,初期の知覚・認知段階で既に道徳に関する処理が行われている可能性が主張されています。本研究では,人物に対する道徳判断が初期の知覚段階に影響を及ぼしている可能性を検証するために,周辺視野に複数の刺激が存在すると個々の刺激の識別が困難になるクラウディング状況下において道徳違反に関する情報がどのように処理されているかを検討しました。実験では,標的顔とエピソード文(道徳違反的または中性的行為)を呈示し,その人物が行為を行っているところをイメージさせることで顔に道徳情報を付与しました。その後,瞬間呈示される標的顔の性別または道徳性の判断課題を実施しました。
その結果,クラウディング下では道徳違反顔に対する道徳性判断の正解率は中性顔よりも高い結果となりましたが,性別判断の正解率には付与された道徳情報は影響しないことがわかりました。また,クラウディングが生じていない状況下では道徳違反顔に対する性別および道徳性判断の正解率は中性顔よりも高い結果となりました。これらは,視覚的アウェアネスが阻害されるクラウディング下においても,人物の道徳性を検出できることを示唆していると考えています。
【感想】
多くのご意見をいただき,データの解釈や研究の方向性について改めて考える機会をいただきました。誠にありがとうございました。「道徳」「クラウディング」といったキーワードから,様々な研究領域の方々と議論することができ,とても嬉しかったです。異なる側面から道徳判断が初期の知覚段階に影響を及ぼしている可能性を検証した研究についても今後の学会・研究会等でご報告したく思っておりますので,またご意見いただけますと幸いです。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。