日本認知心理学会第17回大会で「自人種顔と他人種顔に対する視覚性短期記憶の符号化速度」というタイトルでポスター発表を行いました(西村友佳)

この春からD2になりました。西村です。

5月25日(土)から26日(日)にかけて京都テルサにて開催された日本認知心理学会第17回大会でポスター発表を行いました。発表時間は25日(土)の10時から12時の間で、発表タイトルは「自人種顔と他人種顔に対する視覚性短期記憶の符号化速度」でした。

発表内容

人種効果(other-race/cross-race effect)とは、自人種顔の認識が他人種顔よりも優れている現象のことを言います。自人種顔の方が全体処理の傾向が強いこと(Ito & Urland, 2005)、N170(顔認識と関連が深い事象関連電位)の振幅が自人種顔の方が大きいこと(Zhou, G. et al., 2018)、自人種顔は短い呈示時間でも正確な短期記憶表象を形成することができること(Zhou, X. et al., 2018)から、自人種顔の方が他人種顔よりも熟達した効率の良い顔処理ができるため、人種効果が生じると考えられています。

しかし、これまでの先行研究では、記憶成績の時系列変化を詳細に検討していません。そのため、自人種顔の符号化が他人種顔よりもどれほど効率的なのか(速いのか)がわかっていません。また、先行研究では主に平均値の比較を行っているのですが、短期記憶容量には個人差があることが知られています。したがって、個人差を考慮しながら分析を行う必要があるのではないかと考えました。

そこで本研究は、階層ベイズモデリングを用いて個人ごとにパラメータを算出し、個人差を考慮しながら人種効果と符号化プロセスの時間的特性との関係を明らかにすることを目的としました。自人種顔の符号化は他人種顔よりも効率的かどうかを検討するため、記憶刺激の呈示時間を操作した短期記憶課題を実施し、課題成績から記憶容量と符号化速度を推定しました。

実験では、まず注視点が1秒間呈示された後、2人の顔が呈示されました(記憶刺激)。このときの呈示時間と人種を操作しました。呈示時間は、実験1では0.1秒から10秒の間、実験2と3では0.25秒から1.5秒の間で、試行ごとにランダムでした。自人種顔は一貫して日本人顔を使用しました。他人種顔は、実験1と2では白人顔を使用し、実験3では黒人顔を使用しました(※ 実験3は途中経過の報告です)。これら人種条件は、ブロックごとでランダムに呈示されました。また、顔の性別は、試行内で一貫するようにしました。次に、記憶刺激が呈示された後、マスク刺激が0.1秒間呈示され、続いてブランクが1秒間呈示されました。そして、画面上に顔が1つされました(テスト刺激)。実験参加者の課題は、テスト刺激が記憶刺激と一致するかどうかを回答することでした。尚、課題中は構音抑制を実施しました。実験参加者は、日本人大学生と中国・韓国出身の留学生でした。

分析ではまず、呈示時間ごとに記憶量の推定値であるCowan’s Kを算出しました(Cowan’s Kは、セットサイズ × ( hit – FA )によって求めることができます)。今回、どの実験においてもセットサイズ(記憶刺激の数)は2でした。次に、参加者ごとのデータ(横軸を呈示時間、縦軸をCowan’s Kとしたときのプロット)に曲線 y = a{ 1 – exp( –bt ) } を当てはめました。aは記憶量の最大値を決めるパラメータ、bは最大値に到達するまでの時間を決めるパラメータ、tは記憶刺激の呈示時間を意味します。モデルとしては、対数を取ったパラメータabが正規分布に従うという階層モデルを採用しています。そして最後に、符号化速度を算出しました。今回、符号化速度は曲線 y = a{ 1 – exp( –bt ) }の原点における接線としました。ですので、曲線を微分し、tに0を代入した値、すなわちa × bが符号化速度となります。こうして求めたパラメータの自人種条件と他人種条件の差分の事後分布を求め、自人種顔と他人種顔で記憶容量と符号化速度に違いがあるかどうかを検討しました。

実験の結果、他人種顔として白人顔を用いた実験1と2では、自人種顔と他人種顔の間で記憶容量にも符号化速度にも違いが見られませんでした。ただし、記憶容量と符号化速度に個人差があることがわかりました。一方、途中経過ではありますが、他人種顔として黒人顔を用いた実験2では、符号化速度は自人種顔と他人種顔で違いはないものの、呈示時間1秒以降の自人種顔の記憶容量が他人種顔よりも大きい傾向が見られました。このことから、人種効果は自人種顔で符号化速度が速いために生じるのではない可能性があると、今のところ考えています。

では、どのようにして短期記憶における人種効果が生じるのでしょうか。説明の候補の一つとして、自人種顔のワーキングメモリ(WM)ストレージの活性が、他人種顔よりも大きいことを考えています。Bready et al.(2016)では、よく見慣れたオブジェクトを記憶する際、色のような単純な刺激を覚えるときと比べてCDAの活性が大きいことが示されています。CDA(contralateral-delay activity)とは、エピソード記憶システムとは独立した、WMのストレージの活性を示す事象関連電位です。自人種顔の記憶においても、よく見慣れたオブジェクトを記憶するときと同様に、WMストレージの活性が他人種顔よりも大きいのではないかと予測しています。これについては、今後の検討課題です。

白人顔で人種効果が生じなかった理由として、メディアを通しての接触が考えられます。人種効果は、他人種顔に見慣れると生じなくなることが知られています。テレビや雑誌、インターネットなどを通して白人顔を見る機会が黒人顔よりも多いために、白人顔では人種効果が起きず、黒人顔では人種効果が生じていそうな傾向が現れているのかもしれません。また、白人顔セットが日本人よりも区別しやすく、覚えやすかった可能性も考えられます。

感想

ポスターセッションと並行して口頭発表セッションが行われているため、混雑しすぎることがなく、見にきていただいた方とゆっくりお話しできました。同じデータベースを用いて人種効果実験をやった方から、人種効果が生じた条件を教えていただいたり、実験課題の改善案を提案していただいたりと、今後の参考になるアドバイスを頂戴することができました。お越しいただいた皆さま、ありがとうございました。

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